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青く咲く夢

2008,10,16,Thursday
カイトとメイコ。

『結局のところ、ふたりがいる幸せが最高ってことだよ』




 薄いヴェールを何重にも重ねて不可視にしたような、とてももどかしい夢から覚めて、記憶していた日付を思い出し今日は休日だったと安心した。
 つまりは一日中寝ていたって大丈夫、ってことだ。

 百パーセント純粋な人為(メーカーのお遊び)によって予め設定されている、朝のすがすがしい空気と目を射るような光の溢れる廊下を、カイトは歩く。
 フローリングの床は素足にひんやりとしたよそよそしさを押し付けてくる。
 正方形の磨りガラスが縦二列に八枚はめこんであるドアを開く。
 習慣的に入って左に顔を向けると、ひらひらと蝶々結びの尾が揺れていた。
「おはよう、めーちゃん」
 かけた声に輪郭だけの蝶はくるりと消えて、かわりに呆れて眉を寄せる顔があらわれた。
「全然はやくはないけど、おはようカイト」
 殊更丁寧に言われた挨拶は嫌味でもあったはずなのに、なんだかとても大切なものに思えて、カイトは眩しいものを見るように目を細めた。
 そんな様子に頓着しないで、カイトより細くしなやかな手が蝶々を解く。
「さ、ご飯にしましょ」
 食卓には出来立ての朝食が並ぶ。
 カイトが引いた椅子がカタンと音を立てて、他の音がしないことに気付いた。
「テレビつけていーい?」
 手は掴んだリモコンをテレビに向けて、形ばかりの問い掛けには「どーぞ」と短い了承が返ってきた。
 決まったチャンネルに合わせて、向かい合わせの『いただきます』。
 合わせた両手の親指の付け根で箸をもったままの、ちょっとばかり行儀の悪い仕草と、ふたり同じテンポの軽いお辞儀。
 頭を上げるのはカイトが早くて、目の前で顔を隠してた茶色の髪がさらさら流れて元通りに縁取る。閉じて臥せられた瞼がその下の紅茶色を覗かせる前に、カイトは身体を浮かせて柔らかな唇に触れた。
 ほんのり赤くなった相手より早く、カイトは口を開く。
「めーちゃん、今日はずっと一緒にいようね」
 色の引かない目尻を緩め少し困ったように眉を下げて、「……今日だけよ」と言ったけれど、小さく頷いてくれたので気を良くする。
 抱き枕よろしく腕のなかに閉じ込めて、リビングのクリーム色のラグに寝転がるのだ。
 じやれあう子猫のように頬を擦り寄せ、暖かな日差しをうけながら、うとうとして過ごすのは、どんなにか幸せなことだろう。
 それは、どんな夢であっても、かなわない幸福だ。




敵わないし叶わない。

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